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徒然なること

夏の読書感想文③~風の中のマリア・一頭のオオスズメバチの生涯~

2024-08-22

こんにちは、Portafortuna♪光琉です。

やっと恵みの雨が降って、少しぐらいは涼しくなるかなと思いきやこの暑さ!処暑って何?

夏の読書感想文3本目です。今年の夏は百田尚樹さんの本にハマり、「カエルの楽園」「海賊とよばれた男」「永遠の0」と読んできて、今度は「風の中のマリア」です。大学で生物学を専攻した方も唸るほどの内容だということを聞きつけて、文系の僕も読んでみました。小説やし、百田さんの文章分かりやすいから僕でも理解できるだろうと。予想通り読みやすかったですよ。難しい箇所はちゃんと図で解説してくれていて、痒い所に手が届くみたいな。これなら僕でもわかります。

風の中のマリア

日本にも生息しているオオスズメバチの生態を描いた小説です。擬人化されています。昆虫の話なので、苦手な方もまあまあいるんじゃないかな~とは思います。少しグロいシーンもあるので僕も「うえ~」って思いながら読むところがありました。

1頭(昆虫も匹じゃなく頭で数えるのが正しいんですって)のメスのオオスズメバチ・主人公「疾風のマリア」の生涯を追う形で描かれます。マリアは働き蜂として生まれ、同じ女王蜂から産まれた妹蜂(の幼虫)のために生涯狩りを続けます。獲物は昆虫です。「蜂って蜜を食べとるんやないの?」と思いません?その辺のことも本に書いてあります。女王蜂を頂点にした組織構造や巣の構造、個々のオオスズメバチの生態、集団行動など学術的なこともわかりやすく描かれています。物語仕立てに編集したEテレの地球ドラマティックを文章にしたような感じで、故渡辺徹さんのナレーションが聞こえてきそう。

女王蜂以外のオオスズメバチはメスであっても子供を産みません。一つの巣には一頭の女王蜂から産まれた姉妹蜂だけが住み、基本的にオスは産まれません。女王蜂がメスの子供を次から次へと産み、その子供たちは自らは子供を産むことはなく、妹蜂たちの面倒を見る。いずれ女王蜂の産卵ペースが落ちるころ、新女王蜂(候補)が生まれる。そして女王蜂と巣は・・・。なぜこのようなシステムなのか、それは女王蜂の遺伝子をより残せる可能性が高くなるからだそうです。
このシステムの歯車の一員として生まれたマリアや姉妹の働き蜂たちが、自らの子孫を残さず、ただ妹蜂たちのために狩りをするだけの生涯・運命に疑問を抱くシーンがあります。結局マリアは、それが自分に定められた運命だから、と自分の運命を受け入れます。マリアは他の虫たちのように自らの子孫を残すことだけを目的に生きていくことなど退屈で馬鹿馬鹿しいと考えます。働き蜂として生まれた以上、女王蜂に仕え、妹たちのためにただ狩りをする生涯の方が意義あるものだとします。マリアは最後まで働き蜂としての務めを果たし死んでいきます。

子孫を残すためだけに生きるのも、狩りのためだけに生きるのも、どっちも虚しいな~と思うんですが、でもそう思えるのは今の時代の日本に生きているからかもな~と思ったりもします。贅沢な考え方かも。ちょっと前まで日本に限らず世界中の人間も変わらん生活やったような気がします。ブラック企業や霞が関で働く人たちなんて今でも仕事だけの人生なんやからマリアと変わらんか。

それにしても、人間に生まれて、さらには今の日本に生まれて(今のところ)良かったな~と思いました、野生で生きるのって大変。死ぬまでずっと生きるか死ぬかの瀬戸際でしょう。常に死と隣り合わせと言うか。めっちゃストレスやん!獲物を狙っていたら自分が他の捕食者の獲物になってたって、そんなん無理。そんな気回らへんもん。僕は来世で野生動物に生まれ変わったら、すぐヤラれる側になる自信があります。今世のうちに謳歌しとかないと。

そして、本文中でとても面白いと思ったのがこの2つのくだりです(擬人化されてますからね)。
「・・・それに何より恐ろしい人間に見つかる可能性も極めて少なかった。・・・マリアは一度だけ人間を見たことがある。彼らは他の哺乳動物とは全然違っている。二本の足で歩く動きの緩慢な動物だ。しかしその凶暴性は他のどんな動物よりも激しいという。人間の歩く「道」の近くに営巣したために、破壊された巣がいくつもあるというのを聞いている。彼らに見つかれば巣は徹底的に破壊され、一族は皆殺しにされる。巣の中にいる子供たちも「偉大なる母」もすべて虐殺される」
「・・・人間は私たちを目の敵にして、絶滅させようとしています。彼らは恐ろしい生き物です。人間の住む場所の近くに行ってはいけません。・・・」

なるほど~、確かに蜂から見たらそうやな。人間は残酷な生き物や。グロいシーンで「マリア酷いな~」なんて思いながら読んでいましたが、人間はもっと酷いな。

読書感想文だけでなく自由研究のテーマにもなりそうな内容でした。昆虫が苦手じゃない方にはおすすめの本です。